特別講座
このコーナーは不妊症の中でも少し専門的な事柄について解説しています。

何か意見や質問などありましたらこちらまでお寄せ下さい。

L1: 黄体化無排卵卵胞症候群(luteinized unruptured follicle syndrome, LUFS)

黄体化現象は正常に行われていても、排卵機構は正常に営まれずに、卵胞が存在する病態

1975年, Jewelewiczが最初に報告

【診断】腹腔鏡により
 ヲstigma(破裂孔)が存在しないこと
 ヲperitoneal fluidにprogesteroneやestradiol-17βが正常に比べ著しく低値であること(1982年, Koninchx)
 ヲ超音波によりBBT上昇、progesterone上昇後にも卵胞が存続すること

【頻度】
・正常月経周期、黄体機能不全(ー)の場合 4.9%(1983年, Kerinらの報告)
・原因不明不妊患者の場合 9.0%(1985年, Dalyらの報告)
  10.0%(1984年, Gibbonsらの報告)
・不妊症患者の場合 7.06%(1996年, Zhangらの報告)
・COHで高頻度に発生(31.8% vs 10.1%)(1989年, Zhuの報告)
・hCGにて排卵促進した場合に高率に発生(1988年,Westfahlの報告)
・散発的に発生?
・反復して発生(63.6%のLUFS患者に再発)(1989年, Zhuの報告)
・排卵期にインドメサシン投与で100%にLUFSが発生(1987年, Killickらの報告)

【病因】子宮内膜症との合併が多い(1994年, Wangらの報告)
    子宮内膜症の重症度との関連性はない?
    骨盤内癒着?
    ストレス?
    高プロラクチン血症?
    prostaglamdins(PGs)の産生低下?
    蛋白分解酵素(特にコラゲネース)の活性化が排卵(卵胞破裂)に不可欠?

 

【治療】確立された治療法はない。
    HMG-HCG療法、clomiphene、副腎皮質ステロイドが有用?

【その他】必ずしも黄体機能は低下していない(1983年, Kerinらの報告)
     黄体期のE2の低下は認められないが、P4は有意に低下していた(1993年, Westfahlの報告)

【鑑別】出血性黄体嚢胞(排卵後の卵胞に血液が貯留したもの)
    頻度:20.0%〜29.4%(1997年, Kobayashiらの報告)

【結論】有効な対策はない。原因不明不妊の患者においてLUFSは考慮すべき重要な病態である。



L2: 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary sydrome, PCOS)

1935年, SteinとLeventhalが報告(排卵障害、多毛、肥満、卵巣の腫大)
                          子宮の1/2以上
その後、様々な概念が提唱され今だ統一された定義はない。

【診断】
 ヲ卵巣の多嚢胞性変化
    
 ヲLHとアンドロゲンの上昇→機能性アンドロゲン過剰症(Functional ovarian hyperandrogenism, FOH)
 ヲ慢性の無排卵症→hyperandrogenic chronic anovulation, HCA

 ★アンドロゲン過剰症状または高アンドロゲン血症
 ★稀発月経
 ★明らかな内分泌疾患(先天性副腎過形成、高プロラクチン血症、クッシング症候群など)の除外

PCOSの診断基準案(日産婦・生殖内分泌委員会、1993)
氈D 臨床症状
   @月経異常(無月経,稀発月経,無排卵周期症等)
   2男性化(多毛,にきび,低声音,陰核肥大)
   3肥満
   4不妊
. 内分泌検査所見
   @LHの基礎分泌高値、FSHは正常範囲
   2LHRH負荷試験に対し、LHは過剰反応,FSHはほぼ正常反応
   3エストロン/エストラジオール比の高値
   4血中testosteroneまたは血中アンドロステンジオンの高値
。. 卵巣所見
   @超音波断層検査で多数の卵胞の嚢胞状変化が認められる
   2内診または超音波断層検査で卵巣の腫大が認められる
   3開腹または腹腔鏡で卵巣の白膜肥厚や表面隆起が認められる
   4組織検査で内莢膜細胞層の肥厚・増殖、および問質細胞の増生が認められる
(注)以上の各項目のうち○印をつけた項目を必須項目として、それらのすべてを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群とする。その他の項目は参考項目として、必須項目の他に参考項目をすべて満たす場合は典型例とする.
   
【病態】
1.LHの分泌過剰、莢膜細胞からのアンドロゲン分泌過剰、持続的なエストロゲン分泌による無排卵状態

2.副腎の異常?

3.卵巣でのステロイド産生に関わる酵素の活性低下?
(aromatising enzymeの欠損によりアンドロゲンをエストロゲンに変換できずアンドロゲン産生過剰になる)


【治療】
薬物療法
^クロミフェン:視床下部におけるエストロゲン受容体への内因性エストロゲンの結合を競合的に阻害し、ネガティブフィードバック機構を抑制することにより、GnRHの分泌量とパルス状分泌の頻度を増加させる。半減期は5-7日間。黄体機能不全の改善効果あり。
_ゴナドトロピン:PCOS症例に対してはOHSS予防のためLH含有量の少ないHMG製剤が適している。

   

`ブロモクリプチン療法
 プロラクチン値が正常なPCOSにも有効との報告あり
a漢方療法
 芍薬甘草湯→LH、テストステロンが低下?

手術療法
 卵巣楔状切除
 卵巣焼灼術(電気メス)
 卵巣蒸散術(レーザーメス)

【その他】PCOSと関連が示唆されている疾患
      高インスリン血症
      糖代謝異常
      肥満(上半身型肥満?)
      高脂血症?
      高血圧(妊娠中毒症?)
      冠動脈疾患は少ない?(恒常的エストロゲン分泌?)
      子宮内膜癌(恒常的エストロゲン分泌?)
      乳癌は少ない?
      卵巣上皮癌?

      男性の場合は若年性禿?

【原因】PCOSの大部分は複数の遺伝子変異と環境要因と推定されている。                   食事(ダイエット)

【結論】PCOSはあくまでも一つの症候群であり、適切な治療を行うためには今後は細分類化を行って解析を加えていく必要がある。

L3: 早発閉経(premature menopouse)

【概念】
 卵子枯渇による不可逆的な卵巣機能の廃絶:”古典的”早発閉経
 卵巣に卵胞が存続しているも卵胞発育が障害され卵巣機能不全に陥っている病態:  早発卵巣機能不全(premature ovarian filure, POF)
  ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群(gonadotoropin resistant ovary syndrome)

【定義】40才(日本産科婦人科学会では43才)未満での続発性無月経。

【頻度】全女性の1%、30才未満の0.1%。

【診断基準】
 

【発症機序】
 @染色体異常:Turner症候群(1/2500)
        Down症候群
        FMR1遺伝子異常(脆弱X症候群)
        性染色体異常
        常染色体異常(優性遺伝)
 A卵胞の傷害:放射線被爆(6 Gy以上)
        化学療法(アルキル化剤:cyclophosphamide)
        手術による卵巣への循環障害?
        卵巣炎?(赤痢、マラリア、サイトメガロウィルス、ムンプス)
        喫煙?
        環境汚染物質?(PCB、ダイオキシン、DDTなど)
        ガラクトース血症
 B自己免疫疾患?
   早発閉経の17%?(1993年、Blumenfeldら)
   現時点では標準的な検査方法は確立されていない。
 Cその他
   テロメアの関与?
 Dゴナドトロピン・ゴナドトロピンレセプターの異常
   FSH-βサブユニットの遺伝子異常?
   FSHレセプター異常?
   LHレセプター異常?

【病因の解明】
 ・病歴、家族歴(遺伝性の確認)
 ・外表奇形、内分泌疾患の有無
 ・FSH、LH、E2測定
 ・甲状腺機能、耐糖能
 ・染色体分析
 ・抗卵巣抗体?(標準的な抗原・抗体は未設定。抗核抗体?)
 ・卵巣生検?(必ずしも卵巣全体を反映していない可能性がある)
 ・試験刺激(クロミフェン、GnRHアゴニスト)
 
【管理方針】
 |患者への説明
 ・自然に排卵が回復(20%の症例で排卵再開?)したり、妊娠が成立する可能性もあるが、その予知は困難。
 ・原因は不明なことが多く、また有効な治療法はない。
 ・骨粗鬆症、性器の萎縮、心血管系疾患の予防のためにエストロゲン補充療法が必要(プレマリン1.25mg/日以上、Kaufmann療法が好ましい?)。
 }挙児希望がある場合
 ・経過観察(20%の症例で排卵再開?)
 ・排卵誘発?(その有効性は確認されていない)
 ・oocyte donation?
 ・カウンセリング。


L4: 原因不明不妊(unexplained stirility)

<不妊症の検査一5〜10年前>
|WHO Manual for the Standerdized Investigation of the Infertile Couple (Rowe et al, 1993)
・全身の診察
・内診
・必要に応じ膣、子宮頚管の細菌学的検査
・CBC
・尿一般検査
  内科的疾患の有無の検索
・風疹抗体検査
・血中PRL値測定(正常範囲を越える高い値がでれば再検し、低い方の値をとる)
・高PRL患者には甲状腺機能検査
・無月経患者には血中E2測定
  E2低値、またはプロゲステロン負荷試験により消退出血が起こらなければ、血中FSH測定
  POFであるかを診断
・血中P4測定(排卵の有無を判断)
  BBT、超音波による卵胞の観察、子宮内膜組繊検査
・子宮内膜組織検査、または月経血培養(子宮内膜の結核性病変の検索)
・腹腔鏡、またはHSG
・PCT

}AFS:Investigation of the Infertile couple (American Fertility Society, 1992)
 |+
・子宮鏡

~Keyeら編のtextbook(Glass, 1995)
・月経周期が規則的な婦人に血中gonadotropinや甲状腺機能検査を行なう必要はない。
・LUFの診断のために一周期に数回の超音波による卵胞の観察をするのは、他の検査で異常が見られない場合に限って行なうべきである。
・排卵前に血中E2を測定するのも、正常値のばらつきが大きいため意味がない。
・排卵因子として、BBT、および血中P4値、又は子宮内膜日付診を行なう。
・排卵時期を推定するには、薬局販売の尿中LH試薬を、また、排卵の確認のためには、薬局販売の尿中プレグナンデイオール試薬も有用である。
・血中P値が15ng/ml以上ある場合には、子宮内勝目付診をあとまわしにしても良い。
・PCTは有用と考えられている。PCTが悪い場合には抗精子抗体の検査を行なう。
・卵管因子としては、HSG、腹腔鏡があり、腹腔鏡の際に子宮鏡も行なう。HSGは信頼度が低いため腹腔鏡のみを行なうという人もいるが、HSGが正常であった場合には、6ケ月以内に30−50%のケースが妊娠するため、まずHSG、精液検査、PCT、排卵のチェックを行い、ある一定期間様子を見て妊娠しない場合に腹腔鏡および子宮鏡を行なう。

ESHRE(Capri Workshop, 1996)
ある検査で異常が出た場合、その原因に対する治療を行なう事により、治療をしないより妊娠率が上がる場合のみ、その検査が有効な検査として認められると主張。
有効と判断した検査は、
 ・精液検査
 ・HSGまたは腹腔鏡による卵管の疎通性検査
 ・排卵の検査

≠ワとめ
・精液検査
・排卵に関する検査(血中P4測定、BBT、超音波による卵胞の観察、子宮内膜組繊検査)
・PCT
・HSG
・腹腔鏡
・子宮鏡

<不妊症の検査一現在の考え方>
すべての検査は、一般不妊治療の過程で行なわれるのにもかかわらず、後にARTを行なうという事を前提に行なわれるようになってきている(Balascb, 2000)。

◆精液検査
 通常の検査
 Krugerのstrict criteria(Kruger et al, 1986)
 ハムスターテスト
 IVF

◆排卵
 BBT
 血中P4
 子宮内膜日付診
 経膣超音波

◆HSG
 HSGの後1年以内に妊娠する確率は、油性造影剤を用いた場合には41.3%で、水性造影剤を用いた場合は27.3%。

◆性交後試験
 妊娠の予後に関係しない(Griffith et al, 1990,Helmerhorst et al, 1997,Oei et al, 1998、Zayed et al, 1999)と言う報告や臨床経験からはPCTの結果と妊娠率とは強い相関がある(Hull et al, 1982, Eimers et al, 1994, Hall et al, 1995, Cohlen et al, 1998)と言う報告があり意見は一定していない。

◆腹腔鏡
 数年前までは、日本でも、腹腔鏡をしない不妊治療は考えられないという風潮であったが、最近、腹腔鏡検査に対する評価がかなり変わってきている。

◆子宮内膿組織学的検査
 着床期の子宮内膜の受容性は重要であることはわかっているが、組繊学的、そして生化学的な子宮内膜の反応を評価する適切な方法はない(Balasch et al, 1992, Edwards, 1995, Creus et al, 1998, Giudice, 1999)。
 診断の不確実性から、患者に費用と痛みを与える子宮内膜組繊学的検査を行なう事には否定的になりつつある。そして、黄体機能不全の診断は、むしろ血中P4から診断されるょうになってきている(Speroff et al, 1999)。

◆子宮鏡
 現在のところ、不妊症のルーチン検査の一つとはみなされていない。
 しかしARTを用いても子宮腔の病変はバイパスすることはできない。このため、子宮鏡は今後重要な検査として位置付けられるようになるかもしれない。

検査の結果がどうであれ、早めに過排卵+IUI、そしてARTに移るという傾向が強くなっている。これを反映して、以前はど、不妊原因を徹底的に追求するという姿勢がなくなりつつある。何が何でも不妊原因を見つけて、それに対する治療を行うというのではなく、無理に原因を特定しなくても、妊娠という結果さえ出せれば良いという考え方である。また、ARTでバイパスできる部分に対する検査は省略するが、ARTの予後に重要な検査は、再評価されたり、新しく開発されたりしつつある。

<原因不明不妊>
原因不明不妊とは、不妊検査がすべて正常にもかかわらず、妊娠しない場合を言う。
頻度は6〜60%と報告によりかなりの開きがある。
検査項目の減少傾向により、今後原因不明不妊のカテゴリーに入れられるカップルが増加していくと考えられる。
正常のカップルの1ケ月あたりの妊娠率は30%であるが、原因不明不妊の1ヶ月あたりの妊娠率は1.5〜3%になる。

<原因不明不妊一対策>
◆過排卵刺激
 原因不明不妊に対し、過排卵刺激、過排卵刺激+IUI、ARTは妊娠の可能性を高める。
 原因不明不妊の周期あたりの妊娠率は、クロミフェンの投与により2、3倍の9%になり、HMGの投与では大体10〜15%となる。
 原因不明不妊のカップルには、過排卵刺激を行なうべきである。ただし、それは3、4周期に留めるべきであろう。

◆過排卵刺激+IUI
 HMG+IUIは大変有効な治療手段であるが、一方、多胎やOHSSが起こる可能性も高くなる。

◆DirectIntraperitoneal Insemination(DIP)        
 現在DIPIは原因不明不妊の治療としてIUIより有効とは考えられず、あまり行なわれていない。

◆GIFTとZIFT
 GIFTは本来、原因不明不妊が最も良い適応となる。
 しかし、受精したかどうかを確認できないという欠点もある。
 過排卵+IUIとGIFTを比較した報告では、GIFTの方がはるかに妊娠率が高いというものと、両者に差を認めなかったというものがある。

◆IVF
 IVFは費用はかかるが、受精の確認ができる。
 HMG単独とIVFを比較した報告では、HMG単独の3周期の累積妊娠率が22%であったのに対し、IVFの妊娠率は1周期で17%あった。
 原因不明不妊に対するIVFの周期あたりの妊娠率は、13.8〜23%。
 原因不明不妊でIVFでも受精しない場合には、donor spermを用いる事により、卵子に原因があるのか、精子に原因があるのかを推定する事ができる。
 IVFは費用はかかるものの、原因不明不妊の最終段階の治療として、今後益々広く行なわれるようになるだろう。

結論
 これらの原因不明不妊に対する治療法を、妊娠率、副作用、患者年齢、費用、治療に費やす時間、患者の希望などの観点から比較し、最善の治療法を選択する。
 
◆ESHRE(1991年)
  原因不明不妊に対する治療周期あたりの妊娠率は、
   過排卵のみ:15.2%
   過排卵+IUI:27.4%
   過排卵+DIPI:27.0%
   GIFT28.0%
   IVF:25.7%
  meta−analysisによる各治療の周期あたりの妊娠率は、
   無治療:1.3〜4.1%
   IUI:3.8%
   クロミフェン:5.6%
   クロミフェン+IUI:8.3%
   HMG:7.3%
   HMG+IUI:17.1%
   IVF:20.7%

3年以内の原因不明不妊の約60%は、待機するだけで3年以内に妊娠する。しかし、時間が経つにつれ、周期あたりの妊娠率は低下する。

現在の原因不明不妊に対する標準的な治療法は下記のようなものとなる。
 3-4周期クロミフェン
モクロミフェン+IUI
モHMG+IUI(自然周期+IUIと、IUIを行なわないHMGは、原因不明不妊の治療法として勧められない)
モART

Zayedらの推奨する治療法
 クロミフェンまたはクロミフェン+IUIを4周期以下
モHMG+IUIを3周期
モART

提案
 自然周期+タイミング指導:4周期
モクロミフェン+タイミング指導:4周期
モ自然周期+IUI:3周期
モクロミフェン+IUI:3周期
モHMG+IUI:3周期
モIVF

原因不明不妊の治療方針に絶対的なものはない。

L5: 不育症(infertility)

明確な定義はない。
「着床完了(妊娠3週5日)した生命体を発育維持させる機構の障害、あるいは生命体自身の繰り返す障害」

・化学的流産:20〜30%の確率で発生
・臨床的妊娠〜妊娠8週未満の流産:10%
・妊娠8週〜妊娠22週未満:5%

危険因子
 茶Xトレス
 盗色体因子(20%)
 博q宮形態因子(4%、14〜16%)
 蕪熾ェ泌因子(25%)
  黄体機能不全、高プロラクチン血症
 桝緕モ因子(2%)
 落ゥ己免疫因子(20%)
 同種免疫因子(35%)
 
1988年、イギリスの報告(日本)
 1回目の妊娠の流産率:12%
 1回目流産した人の2回目妊娠の流産率:13%(32%)
 2回連続流産した人の3回目妊娠の流産率:36%(44%)
 したがって、2回以上連続して流産した人において連続的原因による不育症の割合が高く、精査、治療が必要である?

【検査】(名古屋市立城西病院:1999年10月〜)
 □夫婦の染色体血液検査:
   G分染法(2550点)*
  ◆治療法なし
 □子宮形態検査:
   子宮卵管造影検査(2616点)
   経膣超音波検査(自費5500円)
  ◆TCR?
   ただし形態を形成、修復しただけで子宮機能を回復できているか疑問
 □卵巣機能検査:
   基礎体温測定と高温層中期の
    血中エストラジオール(340点)
    血中プロゲステロン(280点)
  ◆黄体ホルモンの補充またはCOH
 □血中プロラクチン検査:
   基礎体温低温層にTRHテスト**(1200点)
  ◆パーロデルまたはテルロン
 □甲状腺機能検査:
   血中フリーT4(240点)
   血中TSH(190点)
 □糖代謝検査:
   空腹時血糖(18点)
   場合によリ75gGTT(200点)
 □凝固検査:
   PT,APTT,Fib(自費1200円)
  ◆ェ因子低下症例にアスピリン療法が有用
 □感染症検査:
   クラミジア抗体IgGとI gA(350点)
 □自己抗体検査:  
   抗核抗体(100点)
   抗CL・β2GPI複合体抗体(400点)
   ループスアンチコアグラント(400点)
 □ナチュラルキラー(NK)免疫細胞検査:
   NK細胞活性(自費8800円)
    −2回以上検査する−
*社会保険診療報酬点数
**250μgのTRHを静脈注射して0分,15分,30分後の血中プロラクチンを測定
注:検査に対応した「疑い病名」が必要 

【主な治療】
 抗リン脂質抗体陽性例に対する治療
  @免疫抑制療法モ副腎皮質ステロイドホルモン(プレドニン)または柴苓湯(9g/D)
  A抗凝固療法モ低用量アスピリン(81mg/D)、ヘパリン療法
  * 妊娠の約3ヶ月前から治療を開始し、抗リン脂質抗体の低下を確認しておく
  **プレドニン:30mg/Dから開始、5mg/2W漸減、5mg/Dで維持
 付記:
 ・抗リン脂抗体症候群:
  1986年、Hughes、Harrisらが提唱
  「動・静脈血栓症、不育症などの臨床症状を示し、抗リン脂質抗体が陽性である疾患群」

 ・抗リン脂質抗体:不育症、妊娠中毒症、IUGR、子宮内膜症、原因不明不妊の発症要因?
  モreproductive autoimmune failure syndrome(RAFS)

 ・抗リン脂質抗体による不育症発症の機序
  @血栓形成亢進
  A絨毛細胞およびその脱落膜への浸潤を抗体が直接障害

 NK細胞活性高値例に対する治療
  @夫リンパ球免疫療法
   臨床応用されて約20年経過したがその有効性の評価は一定していない
   適応症例の確立が十分まだなされていない
  Aガンマグロブリン大量療法
   400mg/Kg/D 3日間静脈内投与/4W

L6: 子宮内膜症(Endmetriosis)と不妊

子宮内膜症とは:

 ・月経時の異常な子宮収縮が卵管を介しての月経血の逆流をもたらし、腹腔内にもたらされた子宮内膜組織の断片が腹膜表面に移植されることにより発生する?

 ・化生説?

 ・骨盤痛および不妊症の原因となる疾患

 ・妊娠可能な女性の0.5〜5%に認められる

 ・不妊女性ではその25〜40%に子宮内膜症が認められる

 ・子宮内膜症の女性の約半数が不妊症

子宮内膜症合併不妊の診療において問題となるのは、子宮内膜症合併不妊の症例において子宮内膜症が不妊の原因であるか否か、もし原因であるとすれば機序は何であるかについて特定することが困難な場合が多いことである。
さらに、子宮内膜症が不妊を惹起する機序は多岐にわたり、機序に応じて最善の治療が異なることも取り扱いを困難にしているといえる。

子宮内膜症の診断:
 自覚症状(月経痛:88%)
 内診(直腸診の併用が有用)
 超音波断層法
 MRI
 腹腔鏡(または開腹術)
 血清マーカー(CA125:20U/ml以上、抗carbonic anhydrase 自己抗体:42.3%に陽性)
 子宮内膜組織アロマターゼ(エストロゲン生合成酵素):91%に陽性

子宮内膜症治療:
 薬物治療
 手術療法

子宮内膜症の生理学的・生化学的影響(不妊への影響)
・卵胞発育への影響
 腹水中にサイトカインなどのinflammatory factor (interleukin−6(IL-6)、CD56(NK)cellなど)の増加が認められる。
 マウス胚を用いた腹水との共培養実験では子宮内膜症の重症度との相関は低いもののblastocystへの発育が著しく抑制されたとの報告がある。
 子宮内膜症を有する女性の卵胞内では酸化ストレス(0xidative stress)が増加し、これが顆粒膜細胞のapoptosisを誘導、結果として卵の質の低下につながるとしている。

・受精および着床への影響
 implantation windowを規定する因子のひとつであるαvβ3インテグリンと細胞外マトリックスのリガンドであるosteopontin(OPN)が子宮内膜の受容性をコントロールしていることが明らかになってきた。αvβ3の発現はepidermal growth factorに刺激されるのに対し、OPNの発現はprogesterone分泌の影響を受けるとされるが、子宮内膜症女性の黄体期内膜ではOPNの発現が不変なのにもかかわらずαvβ3の発現は抑制されており、これにより胚着床が阻害されているというのである。
 
このように生理学的・生化学的側面から見てくると、子宮内膜症の存在はその進行度・重症度による程度の差はあるものの妊娠成立に少なからず影響していると考えられる。

子宮内膜症の卵管への影響(不妊への影響)
 子宮内膜症患者に卵管閉塞例は少ない。しかし、卵管周囲の癒着により卵子の卵管への取り込みが障害されている可能性は高い。

子宮内膜症治療:
“痛み(骨盤痛)”に対しては
 薬物治療および外科治療、またはその両者を組み合わせた治療

“不妊”に対しては
@軽症(rAFS , 期)の子宮内膜症に対する治療

1.軽症子宮内膜症合併不妊に対して一般的には薬物療法の適応はない。
 プロゲスチン、ダナゾール、GnRHアナログの不妊症に対する効果に関しては、Cochrane reviewにまとめられており効果がないと結論されている。
 卵巣機能の低下にともない卵細胞の質低下や子宮内膜の機能不全など妊孕性にとってマイナスに作用すると考えられている。

2.COH(+AIH)
 子宮内膜症は視床下部、下垂体、卵巣系の内分泌的異常を伴っていることが多い。

3.手術療法(腹腔鏡下)
 軽症子宮内膜症に対しLaparoscopyを施行し腹膜の表在性病変を焼灼、腹水を取り除き腹腔内を洗浄するだけでも妊娠成立にとってプラスに作用する可能性があると考えられる。
 カナダのグループは、20〜39歳の341人の軽症子宮内膜症合併不妊を2群に分け、一方で切除もしくは焼灼による子宮内膜症病巣の除去、他方で観察のみを行った。術後36週間まで追跡した結果、前者で172例中50例、後者で169例中29例の妊娠が成立した。累積確率はそれぞれ30.7%、17.7%であり、子宮内膜症病巣を除去した群で有意に高かった。
 イタリアのグループは同様の研究を36歳以下の101人を対象として1年間の追跡調査を行ったが妊娠率に有意な差は認められなかった。
 両者を併せるとオッズ比1.7(95%CI:1.1〜2.5)と子宮内膜症病巣除去後で妊娠率が高いことより、不妊症で腹腔鏡を施行した際に、軽症子宮内膜症が認められた場合はこれを除去することは望ましいと考えられる。

4.ART(IVF−ET)

A重症子宮内膜症(rAFS。、「期)の子宮内膜症に対する治療

1.手術療法(腹腔鏡下)
 手術前のGnRHアナログ投与については、子宮内膜症嚢胞の大きさを縮小させる、骨盤内の炎症性変化を抑えるなどの理由で行われるが、術後の妊娠率が向上するか否かは不明。
 腹腔鏡下手術において卵巣皮質へのダメージを極力控えれば直径3cm以上の嚢胞を摘出した場合でもIVF-ET施行時の採卵数、分割胚数に差を認めない。

2.ART(IVF−ET)

B子宮内膜症合併不妊におけるIVF−ETについて
 
 IVF−ETにおいて子宮内膜症は他の因子と比較して妊娠率を低下させるという報告と影響を与えないという報告がある。
 最近のメタアナリシスされた報告では、子宮内膜症合併不妊ではそれ以外の因子による不妊、もしくは、卵管因子のみの不妊のいずれと比較して有意に妊娠率が低下していた。また、受精率、着床率、採卵数のいずれにおいても有意な低下が認められた。さらに臨床進行期により比較したところ、軽症に比較して重症子宮内膜症では妊娠率が低下していた。
 
一般的に子宮内膜症はIVF−ETの成績を低下させる可能性が高いと考えながら診療にあたる必要がある。

卵巣子宮内膜症性嚢胞の取り扱いについて
 子宮内膜症性嚢胞に対する核出術などの手術療法は、正常卵巣組織に与える障害も懸念される。一方、子宮内膜症性嚢胞の存在は物理的に採卵を困難にしたり、内容液の混入もしくは子宮内膜症組織由来の液性因子などが卵に障害を与える可能性がある。
 近年のCanisらの報告によると、直径3cmを超える子宮内膜症性嚢胞を核出した群、子宮内膜症性嚢胞を伴わない子宮内膜症の群、卵管性不妊群の3群において採卵数、胚の数ともに差を認めていない。
 また、Lohらの報告では,子宮内膜症性嚢胞核出後の卵巣の反応は、35歳以下で自然周期ならびにクロミッド投与に対しては正常卵巣に比べ低下していたが、ゴナドトロビン投与時の発育卵胞数は正常卵巣と差がなかったとしている。
 DonnezらやJonesとSuttonは嚢胞内面のCO2やKTPのレーザーによる焼灼・蒸散により術後のIVF-ETにおいて良好な成績を示している。
 以上より、現状においての卵巣子宮内膜症性嚢胞の取り扱いは、報告されているエビデンスと施設の特殊性などを考慮して総合的に判断すべきであろう。
 本邦では経膣超音波ガイド下にエタノール固定を行う施設もあるが、癒着などの副作用も指摘されており、限られた場合にのみ施行するのが無難と考える。
子宮内膜症合併不妊患者に対する不妊治療方針

          
               子宮内膜症合併不妊患者の治療スケジュール

 HSGにて卵管通過性が確認できない場合にはARTが第一選択の治療法

 片側卵管だけでも通過性が認められ、かつ精液所見に異常が無ければ、COH+AIHを3〜6周期行うのが適当と思われる。

 Laparoscopy施行時には、内膜症病巣の切除・焼灼、また卵管色素通水検査と温生食による腹腔内洗浄を施行する。
 
 Laparoscopy施行時に卵管通過性に異常がなければさらに3〜6周期COH+AIHとし、それでも妊娠に至らなければ精子の受精能力確認の意味あいからもARTに移行するのが妥当ではないだろうか。

まとめ
 
 子宮内膜症合併不妊に対しては腹腔鏡手術を優先し、妊娠が困難な症例にはIVF-ETを考慮するのが一般的な治療の流れといえる。GnRHアナログなどの薬物療法は熟慮して限定した症例にのみ適応とすべきであろう。しかしながら、種々の局面で治療法の選択が困難なことが多いのも子宮内膜症合併不妊の特徴であり、エビデンスを患者に十分説明した上で、患者とともに治療を考えていく姿勢が重要であろう。

参考文献:
 上条隆典:子宮内膜症 産婦人科治療 85: 513-517, 2002.
 大須賀 穣:子宮内膜症合併不妊 臨婦産 56:1252-1255, 2002.
 北脇 城:子宮内膜症の診断精度向上をめざして(K-ネットカンファレンス、2002.10.22)