体外受精Q & A
Q1: 体外受精ー胚移植とはどんな治療法ですか?
A1: 精子と卵子は、人間の身体を形作っている他の細胞とは異なり、次の世代の新しい生命になるために準備された特別な細胞です。体外受精ー胚移植とはその精子と卵子を体の外で受精させて受精卵とし(体外受精)、それをさらに培養して細胞分裂の始まった段階(胚と呼ばれる状態)で子宮の中に入れる(胚移植)治療法です。約二十年前にイギリスで初めて成功しました。体外受精ー胚移植は英語でin vitro fertilization and embryo transferと言い、その頭文字をとってIVF-ETとも呼ばれます。


Q2: 体外受精ー胚移植はどんな人に有効な治療法ですか?
A2: 自然の妊娠には、卵管が通じていること、しかもその卵管が自由に動いて卵巣から排卵する卵子をとらえることが不可欠ですが、体外受精ー胚移植では精子と卵子を体外で受精させた後に子宮へ戻す方法ですので、卵管が通じていない患者さんや、卵管が癒着などでその動きが障害され妊娠できない患者さん(卵管性不妊)に最も適した治療法と言えます。また、最近増えてきている子宮内膜症のある患者さんや様々な不妊症の検査や治療を行ったにもかかわらず妊娠できない患者さん(原因不明不妊難治性不妊)にも有効とされています。また、最近では顕微授精を用いることにより、精子が非常に少ない患者さん(乏精子症)や動いている精子がとても少ない患者さん(精子無力症)あるいは射出精液の中に精子が1匹もいない患者さん(無精子症)でも受精させることが可能となり、そのような男性不妊にも用いられています。


Q3: 体外受精ー胚移植を受けるには何か済ませておかないといけない検査があるのですか?
A3: 日本では「不妊症であり、体外受精以外の治療法では妊娠が望めない夫婦(法的に認められた)に対してのみ行う」ことに日本産科婦人科学会の会告ではなっています。しかし、体外受精以外の治療法では妊娠が望めないかどうかを判断することは一部の(両方の卵管がないとか運動精子が0であるとか)場合を除いて極めて困難です。またA2でお答えしましたように、今日体外受精ー胚移植は様々な患者さんに有効な治療法です。ですから、いま診てもらっている先生から体外受精を勧められたとか、体外受精ってどんなものかなと思っている方は遠慮なく一度話をききに来ることを勧めます。


Q4: 体外受精ー胚移植をうけるにはまずどうしたらいいのですか?
A4: まず一度夫婦一緒に来院していただいています。ただしこれはあくまでも原則で、奥さんだけが受診して話を聞きたいという場合にも当院では応じています。その際にこれまでに受けた検査や治療についてわかるもの(紹介状やカルテのコピーなど)があれば持参をして下さい。もしそういったものがない場合はなくても結構です。 身体的、経済的、時間的に大変な治療法ですからまずは十分にその内容をご夫婦二人に理解していただく事が重要だと考えています。


Q5: 体外受精ー胚移植を受けるにはどれくらい通院をしなくてはならないのですか?
A5: 
1. 体外受精についての説明を受ける時(ご夫婦で来院)。
2. 体外受精に必要な検査をする時(感染症検査、精液検査など)。
3. 治療周期の週3日は診察をします。主に、超音波検査による卵胞計測と血中E2(卵巣ホルモン)値測定をします。ふつう排卵誘発には7〜10日間かかるため3〜5回程度の来院が必要となります。残りの週4日は原則的には注射(HMGまたはFSH製剤)だけなので、必ずしも通院は必要ありません。自宅近くの病院(できれば産婦人科が望ましい)で注射を受けてもらっても構いません。
4. 採卵日(御主人も精液採取のため来院)。
5. 胚移植。胚移植後の着床を助けるためのホルモンの補充は近くの病院でうけてもらっても構いません。
*御主人の来院が必要なのは1. 2. 4. です。
*特別な事情がある方(かなり遠方から来られている方、仕事の都合が変えられない方など)は相談に応じます。


Q6: 体外受精ー胚移植を受けるには入院が必要ですか?
A6: 以前はこの治療法は入院を必要としていましたが、現在は採卵方法が改善され、移植後の安静時間も長時間は必要ないことがわかり、入院の必要はなくなりました。当院でも採卵後、移植後は安静室にてしばらく休んでもらった後、異常がなければ帰宅していただきます。


Q7: 実際の体外受精ー胚移植はどのように行われるのですか? 
A7:
1.排卵誘発剤を使用して卵巣の中の卵子を排卵直前の状態まで成熟させます
2.排卵直前の状態にまで発育した卵子を、経膣的に穿刺針を用いて吸引採取します。
3.卵子の吸引採取と並行して精液を採取し、治療に用いる精子を準備します。
4.選別した精子と卵子を一緒にして受精させ受精卵の状態にします。
5.さらに培養し胚という状態まで育てます。
6.胚を子宮内に移植します。
7.胚移植後は妊娠が成立しやすいホルモン環境をつくります。


Q8: 体外受精ー胚移植にはどうして排卵誘発剤が必要なのですか? 
A8: 自然の状態では、両側卵巣には一度にそれぞれ数個の卵子が発育し始めますが、そのうち成熟して排卵されるのは1個か2個で、他の卵子は途中で発育を停止してしまいます。IVF-ETでは移植する胚の数が多くなればなるほど妊娠率は高くなります。したがって卵巣に何も処置を加えない場合には成熟卵子は1個か多くても2個のため、成熟卵子と精子が受精してできる胚の数も当然少なくなり、妊娠率を高めることはできません。つまり妊娠率を高めるためには多くの卵子を発育・成熟させ、そしてこれらを採取して受精させ培養し子宮内に移植することが必要となります。
 これに変わる治療法として卵子体外成熟方(IVM, in vitro maturation)がありますが、詳しくはこちらを御覧下さい。


Q9: 体外受精ー胚移植の排卵誘発とは一体どんなものですか? 
A9: IVF-ETの排卵誘発法には様々な方法があります。ここでは最も一般的な方法について説明をします。
 まず、IVF-ETを実施する周期の最初の日、あるいはその少し前からGnRHアナログとよばれる薬剤を使用します。これは排卵誘発剤ではありませんがこれを使用することにより排卵誘発剤をより効果的にかつスムーズに発揮させることができます。GnRHアナログ剤には鼻の中にスプレーで薬剤を散布する点鼻剤と皮下に注射をする注射剤の2種類があります。GnRHアナログ剤の開始後、排卵誘発剤としてhMG(ヒト閉経後ゴナドトロピン)製剤またはFSH(卵胞刺激ホルモン)製剤とよばれる薬剤を使用します。hMGやFSHは卵子を発育させる作用をもっている筋肉注射剤で、通常の場合は7〜10日間毎日注射します。hMGまたはFSHを使用し、ある程度卵子が発育したと思われる時点からは、超音波検査による卵胞の大きさの計測や、血液中のホルモン量の測定により、発育している卵胞の数や発育状況を調べます。そして卵胞がある一定の大きさ(約20mm程度)に達し、血液中のホルモン値が十分に上昇したところでhMGまたはFSHの注射を終了し、その日の夜hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)とよばれるホルモン剤を注射します。hCG剤も筋肉注射で、発育した卵胞に作用して排卵の準備をさせる作用をもっています。hCG注射の翌々日の朝に採卵をし、採卵2〜3日後に胚移植を行います。


Q10: 排卵誘発による副作用にはどんなものがあるのですか?  
A10: hMG剤やhCG剤の使用は、基本的には自然の排卵の際のホルモン状態を人工的に作るものですから、通常は大きな副作用はありません。しかしホルモンに対する感受性が非常に高い人の場合には、通常のホルモン量による刺激でも過剰に卵巣が反応し、卵巣が腫大したり腹水や胸水が貯留したりすることがあります。これを卵巣過剰刺激症候群(Ovarian Hyperstimulating Syndrome, OHSS)といい、hMG剤とhCG剤を使用して排卵誘発を行った人の5-10%に発生するとされています。卵巣過剰刺激症候群が重症化すると致命的な場合もあるため私達はその発生防止のため特に注意をはらい、超音波所見やホルモン測定値の状況によって使用するホルモン量を減じたり、場合によっては中止することもあります。しかし完全に予防することは出来ず、その程度が強い場合には入院し加療が必要となることがあります。また症例によってはOHSSの重症化を避けるために、得られた受精卵を全て凍結保存しその治療周期には胚移植を行わない方法を選択する場合もあります。


Q11: 採卵の時は麻酔をするのですか?  
A11: 通常採卵は経膣超音波で見ながら腟の中から卵巣に細い穿刺針を刺入して行い、その所要時間は約10-15分程度です。したがって、痛みはそれ程強くはなく、時間も短いため麻酔なしでも施行は可能です。しかし卵巣の位置や大きさは患者さんによって様々なので場合によっては痛みが強かったり、時間が長くかかることがあるため、多くの施設では何らかの麻酔(腰椎麻酔、硬膜外麻酔、静脈麻酔、局所麻酔など)を行っています。当院でも患者さんとよく相談し、原則的には何らかの麻酔を行う予定です。
尚、当院の採卵室には救急のための薬剤(昇圧剤、抗アレルギー剤、ステロイド剤等)や器材(気管内挿管用チューブ、喉頭鏡、吸引器、AED装置等)を備えています。


Q12: 胚移植はどのようにするのですか?  
A12: まず細いビニール管に胚をゆっくりと吸い込みます。そのビニール管を子宮頚管から子宮に慎重に入れ、静かに胚を子宮内に注入します。患者さんにとっては通常の産婦人科の内診とほとんど変わるところはありません。尚、移植する胚の数は通常3個以内とされています。

Q13: 胚移植後はどのようにすごせばよいのですか?  
A13: 移植後約1時間は安静とし、その時点で異常がなければ帰宅していただきます。以前はまる1日ベッド上で安静にしておいた方が妊娠しやすいなどと言われていましたが、その後の多くの経験から移植後30-60分の安静で問題ないことがわかってきました。帰宅後はなるべく安静を心掛ける方がよいと思いますが、日常生活の範囲であれば特に制限はありません。
 一般的には、子宮が胚を上手に受け入れて妊娠を成立させるためにホルモン剤を使用します。使用するホルモン剤には黄体ホルモン、hCG、あるいは卵胞ホルモンと黄体ホルモンの両方を含む薬剤などがあり、使用法も内服、注射、坐薬の三つの方法があります。
 移植の2週間後に妊娠が成立したかどうかを基礎体温の変化、血中や尿中のホルモン測定、超音波断層法などにより診断します。


Q14: 移植せずに残った胚がある場合は保存できるのですか?  
A14: 移植せずに残った胚(余剰胚)がある場合は、それらを凍結保存し別の月経周期で融解して移植をすることができます。しかし残った胚すべてを凍結保存できるわけではなく、融解・移植後に妊娠に至りやすいと思われる、細胞分裂の順調な胚だけを選んで凍結保存します。また、胚の凍結保存を行った後、1.胚の凍結保存の期間が2年を超え、継続保存の手続きをされなかった場合、2.患者様ご夫婦の一方あるいは両方が亡くなられた場合、3.絹谷産婦人科クリニックからの連絡が不能となった場合、4.ご夫婦が離婚した場合、5.ご夫婦の両方が胚の廃棄を希望された場合には廃棄することにしています。尚、凍結保存胚の融解移植による妊娠率は新鮮胚の移植とほとんど変わらないと言われています。


Q15: 体外受精ー胚移植の妊娠率(成功率)はどれくらいですか?   
A15: 一般的に治療 1回当たり20-40%と言われています。しかし患者さんの状態は様々ですから一概には言えません。妊娠率に大きな影響を与えるのは移植する胚の数と患者さんの年齢だと言われています。移植する胚の数を多くすればするほど妊娠率は上昇しますが多胎妊娠が多くなってしまいます。また若い患者さんは妊娠しやすく、40歳以上の場合は非常に妊娠しにくいこともわかっています。したがってこの妊娠率がすべての患者さんにあてはまるわけではありません。ちなみに日本全国の施設からの報告を集計した1998年5月の日本産科婦人科学会の報告(平成8年分)では、妊娠率は対移植周期あたり22.4%となっています。
 我々は少しでも多くの方がこの治療法で妊娠できるよう日々努力をしています。


Q16: 体外受精ー胚移植で妊娠した場合、多胎妊娠が多いと聞いたのですが?   
A16: 多胎妊娠を恐れて移植する胚の数を減すとと妊娠率が下がり、妊娠率を上げようとして移植する胚の数を増やすと多胎率が上がるという問題を体外受精ー胚移植は抱えています。多胎妊娠は早産や妊娠中毒症の原因となり、母体や児にとって決して好ましい状態ではありません。そこでこの妥協点として3個以内の胚を移植するということに日本産科婦人科学会の会告ではなっています。3個の胚を移植した場合の多胎率は15〜20%と言われています。そして3個の胚を移植した場合にみられる多胎妊娠の大部分は双胎(ふたご)で、品胎(みつご)以上になるのはごく少数にすぎません。


Q17: 体外受精ー胚移植で妊娠した場合、子供は元気に生まれてくるのでしょうか?奇形は大丈夫でしょうか?   
A17: 死産について日本産科婦人科学会の報告では、平成6年の日本でのIVF-ETによる生産数1,311に対し、妊娠28週以後の死産数は5、妊娠20-27週の死産数は12となっており、原因の多くは早産です。妊娠28週以降の死産と出生後1週間以内の死亡を一緒にしたものを周産期死亡といい、この率は通常の妊娠でも出生の1%を少し下回る程度です。またIVFでの先天異常については、同じ報告で平成6年の日本でのIVF-ETによって生まれた先天異常をもった児は7人でその内訳は心臓奇形3、多指症2、兎唇1、染色体異常1となっています。一般的に出生直後に異常と診断される児の率は1〜2%とされていますので、IVF-ETでの先天異常率も通常の妊娠と同程度と思われます。しかし、IVF-ETによる出生児の数は一般的な統計を出すにはまだ少な過ぎますので、先天異常の問題は今後も注意深く見守っていく必要があります。


Q18: 体外受精ー胚移植にかかる費用はどのくらいになるのでしょうか?   
A18:  現在、不妊治療の内、人工授精や体外受精は保険適用外の治療法とされています。また、原則的にはそれを目的として行う検査や処置、投薬にも保険は適用できません。したがいまして当クリニックではそれらについてあらかじめ自費診療料金を設定して治療を行っております。くわしくは遠慮なく電話(082-247-6399)またはこちらまでお問い合せ下さい。


Q19: 体外受精ー胚移植は2カ月以上続けてできるのでしょうか?   
A19: Q7でお答えしたように、体外受精治療の多くは排卵誘発を伴います。それは成功率(妊娠率)を上げるためです。したがって毎周期治療を行うことは卵巣への負担を考慮すると好ましくありません。通常は3〜4周期に1回の割り合いで治療をするようになります。


Q20: OHSS の症状がでて入院が必要な場合は、他院に入院になるのでしょうか?   
A20:絹谷産婦人科クリニックには残念ながら入院設備はありませんので、他院に入院していただくことになります。そのような場合には責任をもって信頼のおける病院へ入院をしていただくようにいたします。
 私の経験では排卵誘発の方法でOHSSの発症率はかなり違ってきます。私が広島大学医学部附属病院で体外受精を担当していた時のOHSSの発症率は約5%で、入院を必要としたのは1%以下でした。


Q21: もし体外受精ー胚移植の治療中にクリニックが停電になったら胚や卵子、精子はどうなるのですか?
A21:胚や精子の凍結保存は液体窒素という-196℃の液体に浸けて行い、電気は使用しないため停電は全く関係ありません。しかし、採卵後の卵子や移植迄の胚はインキュベータ−という温度やCO2濃度を一定に保つ装置内で育てる必要があるため、もし停電になった場合は大きな問題です。当クリニックではそのような場合を考慮し自動自家発電装置をクリニック横に設置し、お預かりする大切な胚や卵子、精子が無駄にならないように万全を期しております。


Q22: 貴院で体外受精ー胚移植の治療を受ける場合、採卵や移植を日曜日や祝日に行う事はあるのですか?
A22:体外受精ー胚移植治療において採卵、移植のタイミングは成績を左右する非常に重要な事と考えています。したがいまして当クリニックでは曜日や祝日にかかわらず最適と判断する日に採卵、移植を行っています。ただし、スタッフの研修および休養や器機の点検・整備のため年に数回(年末・年始、ゴールデン・ウィーク、お盆など)治療が実施できない期間があります。その場合は早めに患者さんに周知するようにしております。


Q23: 体外受精ー胚移植をした場合に、しっかり着床するように患者が何か気をつけることはありますか?
A23:残念ながら特にありません。強いて言えば、「安静を心掛ける」くらいでしょうか。
着床にとって子宮の収縮は好ましくないと考えられています。安静の方が収縮はおこりにくくなると思います。以前、移植後にベッド上安静を2週間行った報告がありましたが、妊娠率は変わりませんでした。
着床にとってストレスもよくないので、のんびり、ゆったり過ごすのがよいと思います。


Q24: カウンセリング受けたいのですがどうすればいいですか?
A23:近年、不妊症治療において心のケアの重要性が明らかになってきました。当院でもその重要性を認識し、必要と判断した方にはカウンセリングを受けていただいています。ご希望の方は遠慮なくお申し出ください。当院と連携のあるカウンセラーまたはカウンセリングについて研修した当院スタッフをご紹介させていただきます。


Q25: 貴院は日本産科婦人科学会による生殖補助医療実施医療機関の登録施設ですか?
A23:日本産科婦人科学会は生殖補助医療実施医療機関の登録を行っています。これは安全で質の高い生殖医療を国民の皆さんに安心して受けていただくための制度で、当院は現在その登録施設になっています。登録施設は学会に治療成績を報告する義務があり、また、学会等で当院での成績を発表することがあります。その際には 個人情報保護法に基づき情報を使用させていただきますのでご了解下さい。